2021.05.19
CSRとは?企業の社会貢献活動の意義や歴史、調達活動におけるCSRの成功事例をわかりやすく解説
CSR活動は、企業による社会貢献活動として欠かせない取り組みです。
もともとCSR活動は、法令遵守やガバナンス機能の強化、ディスクロージャーの徹底を意味していましたが、近年ではフィランソロピーやSDGs、サプライチェーンの透明性など新たな要素が追加されています。
今回の記事では、企業のCSRの事例を紐解きながら、CSR活動の意義やメリット、取り組み方について解説します。
TEXT BY Leaner Magazine編集部
CSRとは?
CSRとは”Corporate Social Responsibility”の略であり、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。
CSR(企業の社会的責任)の考え方は、企業を社会の一部と捉え、自社の営利だけでなくより幅広いコミュニティ・社会に対して利益をもたらす行動を訴える概念となっています。
CSR活動の具体的な内容としては、
- 法令遵守(Compliance)
- コーポレート・ガバナンス(Corporate governance)
- 財務情報等の情報開示(Disclosure)
- 社会貢献活動(Philanthropy)
が挙げられます。
さらに近年のトレンドとしては、国際連合が主導するSDGs(持続可能な発展目標)やサステナビリティを意識したCSR活動が意識されるようになっています。
中でもEnvironment(環境)、Society(社会)、Governance(企業統治)の3つの指標を盛り込んだESG経営は、経営管理・CSR活動の双方のトレンドとして注目を集まっています。
SDGsやサステナビリティ、ESGの詳細については以下の記事をご参照ください。
SDGs・サステナビリティとは?、ESG・MDGs・PRI・地球サミットとの関係、企業の取り組み・目標をわかりやすく解説 | Leaner Magazine|リーナーマガジン
現在、SDGsやサステナビリティ、ESGなどの考え方が普及したことで、企業のCSR活動は活発化し、その内容は大きく変化しています。
これまでは、法令遵守や情報開示など、自社の不祥事リスクを避けるための、いわゆる「守りのCSR」に徹する企業も少なくありませんでした。
一方で、SDGsやサステナビリティが社会的に意識されるに従い、ボランティアや寄付を通じた地域社会・環境保全への貢献、貧困や差別など社会問題解決に対する積極的な姿勢・CSR活動、いわゆる「攻めのCSR」が求められるようになっています。
次の章では、CSRという考え方がどこからやってきて、発展を遂げてきたのかを歴史を紐解きながら、紹介していきます。
CSRの歴史、企業による社会貢献の意義
古くからCSRに近い概念は、欧米やアジアを中心として、様々な社会で存在していました。
例えば、近江商人の哲学として「三方良し」という考え方がありました。これは「買い手良し、売り手良し、世間良し」の3つの状態を満たすことで、社会に信頼される持続可能な商売を目指そうという考え方でした。
またドイツ帝国時代に策定されたワイマール憲法(1919年制定)でも企業の社会的責任に近い概念が「所有権の社会的義務」として表現されていました。
しかし近年では企業の第1目標は”自社”の利益最大化であり、CSR(企業の社会的責任)は2の次、3の次とされてきました。
特に資本主義経済が拡大し、IT化・グローバル化が進む中で巨大化した企業による社会的な影響は、一段と大きくなっています。
そうした中で、行き過ぎた利益追求の副作用として、公害や環境破壊、粉飾決算や企業不正が市場やコミュニティ、社会に対して大きな損失を与えるまでになってしまいました。
水俣病をはじめとする日本の公害問題や、大型粉飾決算のエンロン事件やワールドコム事件、工業排気の不処理によるヨーロッパの酸性雨、地球資源の過剰消費による砂漠化・自然破壊など枚挙にいとまがありません。
こうした状況下で、2000年代に国際標準化機構ISOがCSRの規格化検討に入り、2011年11月には、企業を含めた幅広い組織のSocial Responsibilityに関する国際規格ISO26000といったCSRの正式な規格が提示されました。
これにより、国際調査機関・企業格付け機関から日本の企業に対してCSR関連の調査・質問票が届くようになったことで、企業活動におけるCSRの重要性がさらに高まりました。
こうして2000年代から急速に、CSR活動を体系的に評価するフレームワークができ、それに呼応する形で、様々な企業が独自色のあるCSR活動を展開するようになりました。
次の章では、企業のCSR活動を具体的な事例をもとに紹介していきたいと思います。
企業のCSR活動の具体的な事例
近年活発に行われているCSR活動事例は、SDGsやサステナビリティを意識した活動が増えています。
1. Starbucks Coffee Company
近年、Starbucks Coffee Company(以下、スターバックス)はコンサベーション・インターナショナルと提携して、コーヒー&ファーマー・エクイティ(C.A.F.E)というCSRプログラムを展開しています。
このプログラムの目的は、自社ブランド下にあるコーヒー、紅茶、ココア、その他の製造品が倫理に沿った調達がされるようにすることです。
C.A.F.Eには、サプライヤーが業務のさまざまな側面で満たす必要がある一連の基準があります。その例としては「廃棄物の適正処理」「水質保全」「省エネ」「生物多様性保全」などが挙げられます。
これらの基準は、すべてのスターバックスのサプライヤーチェーン上で測定・監視されており、スターバックスのコーヒー豆の99%が倫理的基準を満たした供給ルートを経て、提供されていること証明することができます。
近年、Z世代を中心とした若者の消費動向は、環境に優しい製品や様々な社会課題に配慮したサービスを好む傾向があります。こうした消費スタイルは、エシカル消費とも呼ばれており、C.A.F.E.を通じたCSR活動を展開することは、これら消費者の心を掴む狙いがスターバックスにはあると言えます。
また、サプライチェーン全体に対する影響として、C.A.F.E.プログラムには、倫理的かつ持続可能な慣行に取り組んでいる28カ国の40万人以上の農家が含まれています。
2. McDonald’s Corporation
McDonald’s Corporation(以下、マクドナルド)が近年行っているCSR活動の中で特徴的なのが、「フィレオフィッシュバーガー」に関わる取り組みです。
現在マクドナルドでは、大規模なサプライチェーンの監査を定期的に行っています。
これら膨大なコストをかけた監査を行うことと引き換えに、フィレオフィッシュバーガーのボックスに、海洋管理協議会(Marin Stewardship Council, MSC)の青いエコラベルを付けることが許可されています。
毎年数億個も販売される自社商品にこのエコラベルを付けることで、マクドナルドは製品や自社ブランドに対する評価を高める狙いがあります。
国際的な非営利団体(NPO)である海洋管理協議会では、一定の環境規格に適合した漁業で獲られた水産物に対して認証を与えており、この青いラベルは「海のエコラベル」として認知されています。
マクドナルドの米国市場のサステナビリティ担当バイスプレジデント、スーザン・フォーセル氏はこの取り組みが「マクドナルドの従業員が、持続可能な方法で製品を調達するファーストフードチェーンの取り組みに考える」役割も果たしており、社内のCSR意識を高める効果も同時に期待していると言えます。
3. 任天堂株式会社
近年の任天堂株式会社(以下、任天堂)の取り組みの中で特筆すべきなのが、「グリーン調達」です。
グリーン調達の詳細については、以下の記事をご参照ください。
グリーン調達・グリーン購入とは?CSR調達との違いや手順、実際に取り組む際に抑えておきたいポイントを紹介 | Leaner Magazine|リーナーマガジン
ゲーム専用機や周辺機器の部品調達において、任天堂は環境や人体に有害な化学物質が製品に含まれないように配慮しています。その際、独自の有害化学物質管理基準を設けているのが特徴です。
近年、任天堂ではゲーム専用機や周辺機器において、有害物質管理基準を満たした部材(グリーン部品)を任天堂の基準に基づいて確実に管理ができる生産パートナー(グリーンサプライヤー)から調達する仕組みをとっています。
また、納入される部材や製品については、その管理基準を満たしているのかどうかを必要に応じて社内で検査しています。
さらに、グリーンサプライヤーの認定においては、事業所・工場等の生産拠点ごとに工程管理設計が妥当であることを確認する審査を行っています。通常は書面による審査ですが、必要に応じて生産パートナーの製造現場も確認し工程管理の改善を依頼しているケースもあります。
多くの企業において、グリーン調達が環境マネジメント規格ISO14001の取得に止まっているのに対し、任天堂の取り組みは非常に先進的であると言えます。
セイコーエプソン株式会社
セイコーエプソン株式会社(以下、エプソン)のCSRの取り組みにおいて特徴的なのが、入念なサプライヤーアンケートの実施調査と、主力商品の1つであるインクジェットプリンター等の原材料となる鉱物のバックグラウンド調査です。
まず、エプソンではメジャーサプライヤーに対してCSR SAQ(サプライヤーアンケート)の実施を行っており、ハイリスクサプライヤーがいるかどうか、もしいる場合には改善活動を依頼し、その完了率にて100%を記録しています。
またインクの原材料となる鉱物調査について、徹底したCSR方針を展開してます。エプソンでは、それら鉱物が紛争地で採掘されていないか、入念に調査しています。
紛争地で採掘された鉱物の場合、それら鉱物の売上が武装集団の資金源になっている可能性があり、不透明性が高いためです。現在、エプソンの調達元の鉱物はCFS(コンフリクトフリースメルター)認定を受けた業者から調達したものが100%となっています。
CFS認定は、鉱物系のサプライヤーが紛争地と一切関係をもたないクリーンなサプライチェーンから原材料を調達していることを認証する資格です。
終わりに
今回の記事では、CSRの意味やSDGsやサステナビリティとの関係性を説明し、その言葉の由来を歴史的背景から紐解きました。
その上で、サプライチェーンマネジメントや調達業務に関連したCSR活動についてもグローバル企業・日系企業双方の取り組みを紹介しました。
ぜひ、今後CSR活動やサプライチェーンマネジメントにかかわる方々のお役に立てれば幸いです。
“Corporate Social Responsibility ensures that a company’s economic growth is beneficial to all its stakeholders, including suppliers, employees, and customers, while minimizing its impact on the environment.”
「企業の社会的責任を果たすことは、その企業に連なる多様なステークホルダーの利益を増やす」(ミルトン・フリードマン、1970年)
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