2021.03.18
グリーン調達・グリーン購入とは?意味や手順、CSR調達との違い、成功事例まで紹介
皆さんの会社では、「グリーン調達・グリーン購入」を取り入れていますか?
近年、企業が果たすべき社会的責任(CSR)に注目が集まっている中、特によく取り上げられている概念です。
本記事では、話題の「グリーン調達・グリーン購入」について紹介します。また、混同されやすい「CSR調達」との違いや、企業の取り組み事例、そのポイントなどを徹底的に解説します。
TEXT BY Leaner Magazine編集部
グリーン調達とは?意味や手順、取り組み事例を紹介
グリーン調達とは
グリーン調達とは、納入企業が調達先を選定する際、「サプライヤーから環境負荷の少ない製商品・サービスを取り入れている企業」や「環境配慮等に積極的に取り組んでいる企業」と優先的に取引・契約を行うことを指します。
グリーン調達では、調達対象である原材料・部品の環境負荷だけを見るのではなく、取引先企業全体の経営方針としての環境への取り組みも考慮します。また、グリーン調達はバリューチェーンマネジメント(VCM)の一環として実施されることも多いです。原料の調達から仕入れ、製品のあらゆる生産過程、消費、廃棄に到るまでのライフサイクル全体を視野に入れて環境負荷の低減を目指します。
グリーン調達の手順
グリーン調達を実施する際の手順を紹介します。
1.グリーン調達基準の作成
まず、自社のグリーン調達に関する方針や内容を明確化します。それに合わせてグリーン調達基準を定めます。
グリーン調達基準としてよく用いられる指標の1つに、ISO14001があります。
ISO14001とは、国際標準化機構が発行した環境マネジメントシステムに関する国際規格群の総称を指します。ISO規格の認証の有無は、企業の製品だけでなく、製品と経営管理システムの仕様の両方が一定の水準・質をクリアできているかどうかを見極めるための判断基準となります。
国際標準化機構から認証を取得するには、ISO14001で定められたガイドラインに沿って、自社の環境マネジメントシステムを構築する必要があります。
元々ISO14001を取得する企業の多くは、官公庁と調達契約を締結することを目指す企業でした。なぜなら、官公庁の調達案件に際しては競争入札等が行われることがあり、ISO14001の認証取得は入札加点対象となることが期待されていたからです。しかし、近年では公的機関との商取引のみならず、自社のCSR(企業の社会的責任)の実行のために取得されることも増えています。
グリーン調達基準としては、取引先企業が「ISO14001を取得していること」というように設定すると良いでしょう。
2.グリーン調達対応サプライヤーを調査する
自社で定めたグリーン調達基準を満たすサプライヤーを調査します。サプライヤー候補に対してRFI(情報提供依頼書)やRFP(提案依頼書)を送付し、環境に対して相手企業がどのような取り組みをしているのか、自社の環境への取り組みをどれくらい理解して調達品の要求を満たしてくれるのかなどを詳しく調べます。
また、定めたグリーン調達基準を、RFQ(見積依頼書)の要件の1つに入れて見積もりを依頼します。RFQの実際の作り方についてはこちらの記事をご覧ください。
3.グリーン調達基準の運用
実際に、自社で定めたグリーン調達基準に従って調達を行います。
法令の変更があった場合にグリーン調達基準にその変更を反映したり、定期的に調達の運用結果を振り返り、必要に応じて基準を改訂したりするのも良いでしょう。
グリーン調達の効果やメリット
グリーン調達は、納入先企業とサプライヤーのどちらにとっても、自社の競争優位性や事業継続性を高めるなどの効果があります。それぞれ紹介します。
1.納入先企業にとっての効果やメリット
納入先企業にとっては、自社の製品を環境に配慮したものとして押し出すことが可能になり、市場で販売を拡大し、新しい事業機会を獲得する効果があります。環境問題に取り組んでいることをアピールすることができれば、企業ブランドの向上にも繋がりますし、また社会からの信頼をも得ることができるでしょう。
とりわけ、近年の消費トレンドには「エシカル消費」など、SDGsを意識した購買行動が若者を中心に広がっています。エシカル消費(Ethical Consumption)は日本語では「倫理的消費」とも呼ばれ、環境や社会問題の解決に貢献できる商品を購入する消費者行動を指します。
また、グリーン調達に積極的に取り組むことは、化学物質などについての法規制を厳格に遵守することに繋がり、コンプライアンス・リスク管理を行う効果などもあります。
環境省を中心に化学物質の使用制限・規制が年々強まる中、規制対象となる物質を使用していることが発覚すれば、罰金の支払いや評判の低下、更には取引先からの取引停止に繋がる可能性もあります。
2.サプライヤー側にとっての効果やメリット
一方、サプライヤー側としても、納入先企業の事業戦略を理解した上で環境に関する要求等に的確に対応することで、納入先企業からの信頼を獲得することに繋がり、これは事業機会を獲得する効果と言えます。
また、「ISO14001」などの規格を取得している企業と優先的に取引をすることを明示している企業は少なくありません。グリーン調達に対応するためにこのような環境のための規格を取得することは、更なる取引の拡大に役立つかもしれません。
グリーン調達の取り組み事例
近年、グリーン調達に取り組む企業は年々増加の一途をたどっています。環境省が発表している「グリーン調達取り組み事例データベース」には、地方公共団体や企業がそれぞれ行っている取り組み事例の一覧が示されています。
そのうち2つの企業の取り組み事例を紹介します。
1.味の素株式会社
味の素株式会社(以下、味の素)では、購買活動における環境配慮を具体的に進めるために、2004年6月に国内外の味の素グループを対象とした「味の素グループ・グリーン調達ガイドライン」を策定しました。原料・資材・間接材などの購入、サービスの委託といった調達活動について、3つの要求事項(以下の図を参照)を示すとともに、環境保全計画にグリーン調達の取り組み計画と具体的目標を盛り込むことを求めています。
(味の素公式ホームページより)
https://www.ajinomoto.co.jp/activity/kankyo/report/pdf/2006/p021-023.pdf
また、味の素における各組織では、事務文具、事務所器具・備品、実験機材、製造過程における消耗品といった間接材のうち、エコ商品の割合を設定しています。そして、調達・購買においては、この割合を達成するための企業努力が行われています。
他にも原料調達における環境配慮の具体的取り組みの1つとして、味の素では原料の輸送に使用される包装資材を環境に配慮したものに変更することに取り組んでいます。具体的には、段ボールをなくし内袋のみに簡素化したり、繰り返し使用することを前提に設計された専用容器を導入する、といった工夫をしており、輸送時の環境負荷の低減と廃棄物の削減を実現しています。
2.富士通株式会社
富士通株式会社(以下、富士通)では、会社独自でグリーン調達基準を定めています。具体的には、環境マネジメントシステムや製品含有化学物質管理システムの構築を行っています。
※参考:富士通グループ グリーン調達基準 第7.2版 (和文)
グリーン調達に関する行動目標として、サプライチェーン上流における二酸化炭素排出量削減及び水資源保全の取り組みを推進することを掲げています。サプライチェーン上にある取引先企業に対して、これらの環境保全活動をお願いしています。
ホームぺージでは、取引先に向けた環境保全活動に役立つ情報を公開しており、二酸化炭素排出量削減活動の手引きや水資源保全活動の手引き等を見ることができます。
またホームページにおいて、取引先からの購入品について含有化学物質調査を実施している旨、どのような調査を行っているか、なども公開しています。
※参考:富士通 グリーン調達
グリーン購入とは?意味や対応サプライヤーを紹介
グリーン購入とは
グリーン購入とは、製品やサービスを購入する際に、環境を考慮して必要性をよく考え、環境への負荷ができるだけ少ないものを選んで購入することです。
「グリーン調達」は、ある企業とその企業が連なるサプライチェーンの上流にある供給企業との間の「環境に配慮した調達行動」を主に指すのに対し、「グリーン購入」は、消費者・法人による最終製品・完成品を購入する際の「環境に配慮した購買行動」を指します。
この購買行動において意識されるのが、以下で説明するグリーン購入法です。
グリーン購入法とは
「グリーン購入法」は、グリーン購入を行う際のガイドラインとして、2000年5月に制定された法律です。この法律は、循環型社会形成推進基本法の個別法の1つとして制定されました。
グリーン購入法においては、国等の公的機関が率先して環境負荷低減に資する製品・サービスの調達を推進することが明文化されています。加えて、グリーン購入に関する適切な情報提供を促進することにより、需要の転換を図り、持続的発展が可能な社会の構築を推進することを目指しています。
※参考:環境省 グリーン購入法.net
グリーン購入法適合商品とは
更に、このグリーン購入法によって定められた特定調達品目及びその判断基準に適合する品のことを「グリーン購入法適合商品」と呼び、これを重点的に調達を推進するべきものと位置づけ、環境省のホームページに更新しています。
毎年、製品やサービスが適合しているかどうかの見直しを行うため、同サイトにて意見募集をしています。また、この「グリーン購入法適合商品」の一覧はこちらで見ることができます。
※参考:エコマーク商品総合情報サイト
グリーン購入の対象となる物品としては、文房具などの消耗品やオフィス家具、オフィス機器などの間接材が多いです。
株式会社MonotaROなどでは、「グリーン購入法適合商品」をピックアップしてホームページに掲載しており、グリーン購入法に対応している企業も増えています。
※参考:MonotaRO グリーン購入法適合商品
CSR調達とは?
CSR調達とは
CSRとは、「Corporative Social Responsibility」の略で、企業の社会的責任のことです。企業が収益の向上だけでなく、環境問題や人権問題への対応などを含む社会的責任を果たしていくことを促すための概念です。CSR調達では、このCSRを意識した上で調達を行います。
CSR調達を行うことにより、企業価値の向上や、コンプライアンス(法令遵守)上のリスク回避などのメリットがあります。
CSRのガイドラインについて
CSR調達のガイドラインは、基本的には各企業が独自に定めていますが、電子機器業界においては、EEIC(電子業界行動規範・電子機器業界のCSR調達の国際基準)の取り組みを受けて、「サプライチェーンCSR推進ガイドブック」を社団法人電子技術産業協会(JEITA)が公開しています。
CSR調達に取り組んでいる企業を参考に、独自のガイドラインを作成すると良いでしょう。
CSR調達の考え方の企業例
CSR調達についての考え方の例を、以下の2社の例を挙げて紹介します。
1.大日本印刷株式会社(以下、DNP)
DNPでは、バリューチェーン全体の社会適合性を高めるとともに、DNPグループとサプライヤーとが持続可能な発展を遂げるために取り組むべき事項として、「DNPグループ CSR調達ガイドライン」を定めています。
これらガイドラインでは、SDGsの諸指標に配慮しつつ、幅広いステークホルダーが利益を享受できるような企業行動を取ることが推奨されています。また、会社が取り組むべき事項を、管理体制の構築(要請事項)、行動基準(遵守事項)、社会貢献(推奨事項)に分けて定めています。
詳しくは、公式ホームぺージを参照してください。
2.キリンホールディングス株式会社(以下、キリン)
キリンでは、社会的な責任を果たすべく、2017年に「キリングループ持続可能な調達ポリシー」を制定しました。
「キリングループの調達基本方針」は以下の6つ定められています。
1.品質方位
2.オープンでフェアな取引
3.コンプライアンスの遵守
4.人権への配慮
5.環境への配慮
6.サプライヤーとの相互の信頼と繁栄
これとは別に「サプライヤーCSRガイドライン」も定められており、遵守要請項目として「アルコール関連問題への取り組み」などを含んだ6項目が定められています。
とりわけ、キリンの取り組みでポイントとなるのは、SDGsへの配慮に加えてCSVを積極的に打ち出している点です。
CSV(Creating Shared Value)とは日本語で「共通価値の創造」と訳されます。これはCSR活動を会社から独立した社会貢献活動としてでなく、会社の事業・利益と深く結びついた企業行動の一環として捉える考え方です。
すべてのCSR活動がCSVに当てはまるわけではなく、自社の商売と関連性の高い社会貢献活動がCSVに含まれることになります。しかしCSVは、会社の利益と紐づいている分、持続性の高い取り組みになることが期待されています。
キリンのCSR調達推進に向けた取り組みなど、詳しくは公式ホームページをご覧下さい。
グリーン調達とCSR調達の違いと注目されるようになったきっかけとは?
グリーン調達やCSR調達は、共に企業の社会的責任を考慮するCSRに向けた取り組みの1つです。
グリーン調達はSDGsの考えのもと、サプライチェーンのサステナビリティ向上のために生まれた概念で、環境に配慮した調達を行うことを指します。
一方、CSR調達は環境だけでなく、人権の問題や労働環境、コンプライアンス(法令遵守)など様々なことに配慮して調達を行うことを指します。
SDGsについて、概念導入の背景や概要について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
環境にも優しい調達を取り入れよう
グリーン調達・グリーン購入、最後にはCSR調達について紹介しました。
どれも、環境問題を含む社会的な問題に対応する、今の時代には必要不可欠な概念です。
それぞれの概要や取り組み事例などを参考にしながら、皆さんの会社のCSRに向けた取り組みを強化してみてはいかがでしょうか?
本記事が、皆さんの会社の調達の最適化の一助となれば幸いです。
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