2020.05.20

コスト削減のため他社と協力…?「共同調達」の概要とポイント

コスト削減のため他社と協力…?「共同調達」の概要とポイント

「共同調達」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

共同調達とは、企業が原材料や間接材などを調達する際に、他社と協力したり、グループ会社間で連携し合うことで、調達プロセスを一本化することを指します。

実現すればコスト削減につながるなど、いくつかのメリットが期待できる一方で、越えるべきハードルも存在します。しかし、十分に検討・対策し、導入に成功すれば、大幅にコストを削減できるかもしれません。

本記事では、共同調達のメリット・デメリットと、実際に「共同調達」に関する取り組み情報についてご紹介します。

TEXT BY Leaner Magazine編集部

共同調達がもたらす3つのメリット

 他社と共同で製品を調達することには、大きく分けて3つのメリットがあります。

①調達コストを削減できる

 共同調達を行うことで、調達コストを削減できるというメリットがあります。

 一般的に、調達量が多い方が規模の経済が働き、サプライヤー側への単価引下げの交渉がしやすくなります。共同調達を行う場合、単独で交渉するよりもスケールメリットの恩恵を享受しやすくなります。

 また、複数社の発注が単一のサプライヤに集中するため、サプライヤ側にとって無視できない取引となるでしょう。1社で交渉を行うよりもサプライヤ間での競争原理が働きやすくなり、その分だけ交渉はしやすくなるでしょう。

 初期費用が高く1社での導入が難しかった製品も、複数の企業で同時に導入することで、費用負担を軽減できる可能性もあります。 

②事務処理にかかる作業量が減る

 調達には、契約状況や支払い方法の確認など、多くの事務処理が必要となります。

 主に系列会社で共同調達を行う場合に当てはまりますが、このような事務処理の一元化を図ることができる点はメリットと言えます。作業量が全体として減るだけでなく、系列会社にノウハウや耐性があれば、これを活用することができるかもしれません。

③他社の調達について知ることができる

 もう一つのメリットとして、「他社の調達状況が把握できること」が挙げられます。場合によっては調達量や水準、調達に関わるオペレーション、ルールといったことを知ることができるかもしれません。

 他社の調達に関する情報は、なかなか知ることのできないものです。戦略策定や管理体制の見直しなどの参考にできれば、自社の調達に役立つと言えるでしょう。

共同調達で気を付けるべき3つのハードル

 共同調達を進める上で、対策が必要となる問題点を3つ紹介します。

①共同で調達する企業とのコミュニケーションが煩わしい

 他社と共同で調達するを行うためには、当然企業間の密な連携が不可欠です。自社のみで調達する場合なら、関係部署との連絡で事足りるかもしれませんが、他社と連携する場合には、各会社の担当者・責任者全員の了解を得なければいけません。

双方のコミュニケーションを円滑に行うためには、簡素な連絡で済む体制の構築や、チャットツールなど負担のない連絡手段を採用するなど、対策が必要と言えるでしょう。

②企業によって、享受できるメリットの度合いが異なる

 共同調達を行う企業同士が全く同じ調達量ということは、あまり考えられません。よって、複数の企業の中でも、最も調達量が多く、購買力のある企業が存在します。実は、共同調達は性質上、最も購買力のある企業が、最も得られるコスト削減メリットが小さいのです。

 例えば、1個300円の消耗品を10,000個調達する大手A社と、5,000個の消耗品を調達する子会社Bがあったとします。これら2社が共同調達するとして、合計で15,000個調達する企業と同じ割合の規模の経済が働きます。

 具体的に説明すると、5000個を超えた分は1割引きになる場合に共同調達をする場合、調達総計は、300円×5,000個+270円×10,000個=4,200,000円となり、1個当たりの価格は280円となります。

 このとき、共同調達をしない場合に割引を受けないB社は、共同調達をすることによる利益が1個当たり20円であるのに対し、A社は1個当たり5円の利益となります。

 この場合、A社の方が調達量が多いのにもかかわらず、B社の方が得をしています。

 このような状況になるため、最も購買力のある企業は離脱してしまうといったケースも起こり得ます。共同調達による総利益をあらかじめ計算しておき、貢献度によって分配するなどの対応を取っておくと良いかもしれません。

③仕様を統一する必要があるため、必ずしも本来欲しい製品を調達できない

 他社と共同で調達するには、製品の質やメーカーをある程度統一する必要があります。場合によっては、自社の欲しいものから少し妥協したものを調達することになるかもしれません。

自社が元々欲しいものと近しい仕様のものを調達しようとしている会社と共同調達する、それほど品質にこだわりのないものだけを対象とした共同調達を行うなど、相手や対象品目を限定することで問題を回避できるでしょう。

共同調達によるコスト削減の取り組み事例

 実際の共同調達取り組み事例を、3つご紹介します。

アサヒグループホールディングス株式会社の共同調達

 2019年8月にアサヒグループホールディングス株式会社(以下アサヒ)は、買収した欧州のビール会社と、それまで別々であった大麦やホップなどのビール原料の調達を、2020年末までに一本化すると発表しました。

 この共同調達は、アサヒグループの大規模なコスト削減改革のうちの一つとして取り上げられています。

“アサヒGHD、世界でビール原料の調達一本化 ”

2019/8/20 22:00 日本経済新聞 電子版

アサヒグループホールディングス(GHD)は買収した欧州の事業会社とビール原料の共同調達に乗り出す。現在は日本と欧州のビール会社で大麦やホップなどを別々に調達しているが、2020年末までに一本化する。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48774050Q9A820C1TJ2000/

 取り組み結果はまだ明らかになっていませんが、今後の成果が楽しみな事例です。

自動車会社3社による共同調達

 2018年度から三菱自動車工業株式会社は、フランスのルノー株式会社及び日産自動車株式会社の共同調達会社に出資することを発表しました。これら3社内で対象の費目や地域を定めた上で共同調達をすることにより、サプライヤーに対する購買力を上げる目的です。

参考記事:https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00449409

 事業規模を生かし、大手サプライヤーに対する集中購買を行う大規模な事例です。

日本電信電話株式会社(NTT)の共同調達

 最近話題になった事例としては、日本電信電話株式会社(以下NTT)のものが上げられるでしょう。昨年末に総務省の「情報通信審議会」において行われた「電気通信事業分野における競争ルール等の包括的検証」に対する最終答申の一部に、以下の文言がありました。

“通信事業者の調達力強化を通じてグローバル展開や先進的な研究開発等に対する投資を促進するため、NTTグループの共同調達ルールについて、公平競争を阻害しないための措置を講じた上で例外的に認める。”

 実際にNTTグループが共同調達をする例として、NTT東日本とNTT西日本が統一仕様の光回線を導入することが挙げられました。この共同調達により、NTTグループの調達力を上げようという試みです。

 しかしこれに対し、「公平競争を阻害しない」という言葉の定義があやふやであり、料金の高止まりを助長し公平競争を損なう恐れが大いにあるとして、KDDIやSoftbankを含む21社の電気通信事業者は2020年1月に申出書を総務大臣に提出し、これが話題となりました。他電気事業者の反発が大きい中、実現されるかは不明です。

まとめ

 本記事では、共同調達について、メリット・デメリットを含めてご紹介してきました。

 実際に導入するとなると、ハードルが高い点は否めませんが、自社の状況を冷静に考察し、取り入れるメリットが大きいのであれば、一度検討してみてはいかがでしょうか。

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