2021.09.02
サステナブルトランスフォーメーション・SXとは?DXとの関係性、調達領域での最新事例や手順についても解説
企業がデジタルトランスフォーメーション・DXとサステナブルトランスフォーメーション・SXを合わせて取り組むことは、業務効率化だけでなく、企業価値向上や中長期的な企業経営の安定化につながります。
本記事では、SXの意味や近年注目される理由を解説します。そのうえで、企業が調達領域においてSXを行う上で、重要となるポイントや手順についてくわしく紹介します。
TEXT BY Leaner Magazine編集部
1. SXとは?
近年、より長期的に高い付加価値を生み出せるビジネスモデルを実現するために、多くの企業が業務効率化だけでなく、企業文化や組織改革、経営体制の変革に取り組んでいます。特に近年は、デジタル技術が進歩するにつれ、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されています。
しかし、株主や顧客、サプライヤーなど多くのステークホルダーに資する企業を目指す過程では、自社サービスの市場競争力を高めるDXを行うと同時に、より長期的な価値提供を行えるビジネスモデルが求められます。そこでいま、「サステナブルトランスフォーメーション・SX」と呼ばれる経営改革のアプローチが注目されています。
SXが日本で注目されたのは、2019年11月に経済産業省で行われた「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」でした。同検討会は、2020年8月に発行した「中間取りまとめ」を通じて、企業価値を長期的かつ安定的に向上させるための経営手法として、SXへの取り組みを提案しています。
経済産業省の報告において、SXは以下のように定義されています。
「不確実性が高まる環境下で、企業が『持続可能性』を重視し、企業の稼ぐ力(競争優位性)とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針」
(surce: サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会
中間取りまとめ)
この図表では、企業経営を中長期的な視点から考える際、「社会の将来像」に対する洞察が大事になることが示されています。具体的には、将来的に社会がどのような状態になっているのかを「リスク」と「オポチュニティ」(事業機会)の両面から検討し、その社会において自社の競争優位性・企業価値を高めるために必要な施策・経営戦略を逆算して考えるということです。
また施策の検討プロセスにおいては、経営陣と投資家の対話が重要視されていることがSXの特徴です。一般的に企業のオーナー(株主)になり得る投資家は、中長期的な企業価値の向上や資本生産性(ROE, ROA)を重視する傾向にあるため、長期的な時間軸を前提とするSXの議論を行う上で、最適な存在だと言えます。
特に近年、ESG投資が社会に浸透し始めたことは、SXの重要度を高めるきっかけとなっています。ESG投資とは、企業への投資に際してEnvironment「環境」、Social「社会」、Governance「統治」それぞれの要素を総合的に評価して、投資行動を行うことを指しています。
従来の企業経営で大事にされてきた収益性や競争優位性の重要性を忘れず、一方で投資家のニーズに応えるためにESGの視点を新たに取り込んでいくことが、これからの経営陣には求められるでしょう。
また未曾有のデジタル社会へと向かうことが既定路線となっている今、高度に情報化する社会の中で、自社の競争優位性を維持するためには、DXの推進が不可欠です。同時に、そのDX施策を、中長期的な企業価値向上に結びつけて良いのかを考える上で、SXはとても重要なアプローチとなります。
次の章では、DXとSXの関係性を紐解きながら、企業に求められる施策について解説していきます。
2. SXとDXの違い、関係性とは?
現在、多くの企業が取り組んでいるDXは、既存事業の効率化と価値向上を目的とした取り組みに留まりがちです。
一方で、近年のDX事例で成功しているものを分析すると、単に業務効率化や業績向上にとどまらないゴールを設定し、企業改革が行われています。
その典型例が、経済産業省と東証取引委員会が2019年に認定したDX銘柄グランプリで、首位に輝いたコマツ製作所の事例「KOMTRAX」です。企業の株価は投資家からの評価を反映したものであり、グランプリを獲得したコマツは、中長期的に稼ぐ力(競争優位性など)があるという評価をマーケットから得たと言えるでしょう。
KOMTRAXはIoT技術を活用して、工場内や離れた拠点にある機械を一括管理し、インターネット上で稼働状況を閲覧できるようにしたサービスです。実務面では、このサービスを活用することで、コマツの顧客は盗難防止・機械故障等のリスク管理を大幅に改善し、事業コストを軽減できます。
同時にこのサービスはESGの観点からも高い評価を得ています。なぜなら、KOMTRAXを活用することで、コマツは燃費消費量などを適切にモニタリングし、クラウド経由で顧客企業とデータ共有することできるようになります。
このように、コマツは自社サービスのDXを促進することで、顧客企業との大規模なデータ連携を実現しました。そして、このデータ連携を通じて、顧客企業の事業コストを軽減するだけでなく、ESG指標の改善を促すことで、顧客企業のサステナビリティ向上にも寄与しています。
このように、近年評価されているDX事例に欠かせないのが、SXで重視されているESG・サステナビリティの視点です。SXはDXと相対するアプローチではなく、むしろDXで企業が得られた価値に持続性(サステナビリティ)を持たせるための包括的な取り組みだと言えます。
SXの重要性は、日本企業においても徐々に認知が広がっています。例えば、NECにおいてもSXの重要性が発信されています。NECの公式サイトでは、
「DXとSXは、どちらかを選んで取り組むようなものではありません。2種類の発想を、描いたビジョンに合わせて組み合わせ、改革を進めていくものです。」
というメッセージが、以下の図表とともに発信されています。
(NECサイトにおけるSXの説明)
3. 調達領域におけるサステナブルトランスフォーメーション・SXとは?
Leaner Magazineでは、調達領域にスポットを当て、SXについてより踏み込んで考えてみたいと思います。本記事では、企業が自社の調達領域において実行可能なSXについて紹介します。
- SCM(サプライチェーン・マネジメント)の見直し・強化
サプライチェーンマネジメントは、企業のサプライチェーンが多様化・国際化するに従って、重要性を増しています。これまでのSCMは、企業によっては、業務が属人的に行われてきた側面がありました。購買・調達部門にいるベテランの経験に頼ったオペレーションは、それら社員の在社期間が過ぎると、途端に業務効率が悪化してしまいます。
そうした事態を避ける上で、ITシステムを導入し、サプライチェーンマネジメントをデジタル化する企業が増えています。
特に近年利用が進んでいるのは、人工知能によるデータ解析・学習機能を搭載したインテリジェントSCMという分野です。インテリジェントSCMは、IT各社が独自に提供するクラウドサービスであり、主に「データ管理」「生産計画の策定」「在庫調整」等を担うことができます。これらシステムによって、企業はサプライチェーン全体を数値的に俯瞰し、人員配置や業務プロセスを最適化することができます。
またこの施策は、サステナビリティの観点からも高い波及効果があります。SCMのデジタル化は、これまでバラバラに行われていた属人的な調達・生産プロセスを改善し、取り組みの”再現性”を高めることに繋がります。
クラウド上で調達・生産データや取引履歴を一括管理してくれるので、進行状況のモニタリングやKPI設定、施策の修正等がスムーズになります。これによって、社員の入れ替えが発生しても、業務全体の質が落ちにくくなります。
- グリーン調達・グリーン購入の実践
グリーン調達は近年、多くの企業に注目されている調達手段です。グリーン調達はSDGsの考えのもと、サプライチェーンのサステナビリティ向上のために生まれた概念で、環境に配慮した調達を行うことを指します。
近年、消費者の若年層にはエシカル消費など、環境に配慮した消費活動が広がりつつあります。エシカル消費(Ethical Consumption)は日本語では「倫理的消費」とも呼ばれ、環境や社会問題の解決に貢献できる商品を購入する消費者行動を指します。
企業にとって、グリーン調達・グリーン購入を実践することは、自社の製品を環境に配慮したものとして押し出すことを可能にします。これによって、市場で販売を拡大し、新しい事業機会を獲得する効果があります。
また、環境問題に取り組んでいることをアピールすることができれば、企業ブランドの向上にも繋がりますし、また社会からの信頼をも得ることができるでしょう。
さらにグリーン調達に積極的に取り組むことは、化学物質などについての法規制を厳格に遵守することに繋がり、コンプライアンス・リスク管理を行う効果などもあります。
環境省を中心に化学物質の使用制限・規制が年々強まる中、規制対象となる物質を使用していることが発覚すれば、罰金の支払いや評判の低下、更には取引先からの取引停止に繋がる可能性もあります。
このようにグリーン調達を実践することは、ブランド価値の向上や消費者の支持獲得、コンプライアンリスク管理など、企業にとって中長期的な競争優位性を獲得することに繋がります。
- 発注・見積におけるガバナンス機能の強化
コーポレート・ガバナンスは、サスティナブルトランスフォーメーションを実践する上で欠かせない要素の1つです。コーポレート・ガバナンスは、日本語で「企業統治」を意味し、「健全な企業経営を達成するために、企業自身で経営を管理監督する仕組み」のことを指します。
とりわけ調達領域における、コーポレート・ガバナンス機能の強化においては、適切なITシステムの導入を通じたデータ連携・DXを推進することで、企業の競争優位性を著しく高めることに繋がります。
調達や支払プロセスがIT化されることで、「誰が」「何に」「いくら」発注しているかが分かり、ガバナンスリスクに繋がる不正取引や架空発注を未然に防ぐことができます。
また、見積もりの過程でサプライヤーを選定する際、見積履歴をシステムに残しておくことで、サプライヤー選定の透明性が向上します。そして、これら調達過程では、サプライヤーの選定において、上記で述べたグリーン調達を見積もりの要件の1つに加えることで、よりESG経営のE(環境・Environment)にも配慮した経営を実践することができます。
4. 終わりに
いかがでしたでしょうか。
今回の記事では、企業が中長期的な価値向上を目指すために実践するべきSX(サステナブルトランスフォーメーション)についてご紹介しました。
記事前半ではSXの概要やDXとの関係性について解説しました。そして後半部分では、調達領域での具体的なアクションプランをサプライチェーン・マネジメントやグリーン調達、コーポレート・ガバナンスに落とし込んで解説しました。
ぜひ、今回の記事が皆さんのSXを意識した経営の実践に役立てられたら幸いです。
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