2021.03.02
SCMとは?意味や方法、事例から学ぶサプライチェーンマネジメントの最適化ポイント
みなさんの会社では、適切なSCM(サプライチェーンマネジメント)ができていますか?
2000年代初頭からのITツールの発達により、SCMを通じたサプライチェーンの一元管理・デジタルトランスフォーメーションが加速しています。近年ではビジネスのグローバル化も相まって、サプライチェーンは拡大の一途をたどり、経路も複雑化しています。そうした中で、ITの力を借りたSCMの重要性が再認識されています。
本記事では、SCMの概要からSCM最適化のポイントまで、事例に基づいて詳しく解説します。
TEXT BY Leaner Magazine編集部
サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、製品やサービスが作られるところから消費者のもとに届くまでの一連のプロセスのことを指します。
具体的には、原材料や部品の調達から、製造、在庫管理、物流・流通、販売、消費といったプロセスをまとめてサプライチェーンと言います。サプライチェーンは、様々な供給者(サプライヤー)が鎖(チェーン)で数珠つなぎになっている様から「供給連鎖」とも呼ばれます。
また、サプライチェーンは農産物や鉱物などの一次生産者から始まることが多く、こういった供給連鎖のスタート地点を「上流・川上」と呼びます。そして原材料や部品が様々な生産工程・流通経路をたどり、店先やカタログに並ぶ商品の形へと組み立てる業者のところまで来ると、「下流・川下」と呼ばれるようになります。
一方で、消費者の購買情報やお金はサプライチェーンの下流から上流へと逆向きに回収されていきます。そして、この情報やお金の流れを意識することはSCM(サプライチェーンマネジメント)を理解する上で、とても重要になります。
SCM(サプライチェーンマネジメント)とは?
SCM(サプライチェーンマネジメント)の意味
SCM(サプライチェーンマネジメント)とは、サプライチェーンに見られるような製品やサービスの流れ、お金の流れを情報の流れと結びつけることにより、サプライチェーン全体で情報共有や連携を行い、さらにはデータ解析を通じてサプライチェーン全体を最適化する手法のことを指します。
また、サプライチェーン全体をITの力によって最適化する目的から、近年のSCM導入事例は「物流・サプライチェーンのデジタルトランスフォーメーション」に大きく貢献しています。
このデジタルトランスフォーメーションの特徴は、それぞれのプロセスを一つずつ最適化していくのではなく、サプライチェーン全体のバランスを見ながら、データを統括し、最適化する点です。
製品やサービスの流れを整えるだけでなく、情報の流れも徹底管理し、生産プロセスのスピードやコストを最適化することもSCMに含まれます。
特に近年利用が進んでいるのは、人工知能によるデータ解析・学習機能を搭載したインテリジェントSCMという分野です。インテリジェントSCMは、IT各社が独自に提供するサービス・ソフトウェアが、主に「データ管理」「需要予測」「生産計画の策定」「在庫調整」等を担うことによるものです。特にサプライチェーンの最下流に位置する消費者の嗜好情報・購買実績がビックデータ化されたことは、このインテリジェントSCMの精度を高めることに繋がっています。
SCM(サプライチェーンマネジメント)最適化によるメリット
SCM(サプライチェーンマネジメント)を最適化することにより、主に以下の3つのメリットが考えられます。
1.リアルタイムで迅速な対応策を打てる
サプライチェーン全体を最適化するためには、関連する製造・流通プロセス全ての情報を一元管理する必要があります。
情報を一元管理することにより、リアルタイムで各プロセスの状況が把握でき、供給体制に問題が発生したときにその問題発生場所に関わる部門・外部のステークホルダーに素早く情報共有ができ、スピーディーな対応が実行可能になります。
特に近年のSCMの特徴は、「機械学習など最新のデータ解析手段」「IoTを通じたエッジコンピューティングによる現場でのデータ収集手段」を通じて、調達購買・在庫管理・生産管理における予測性能が飛躍的に向上した点にあります。この予測性能の向上も、スピーディーな対応に一役買っていると言えるでしょう。
2.人材や費用を最適化できる
サプライチェーン全体を最適化していくためには、それぞれのプロセスにおける業務効率化や要員計画の見直し、コストの可視化が必要です。これらを徹底することにより、余分な人件費を削減したり、調達コストの最適化を図ることができます。
特に、サプライチェーンのプロセスの中でも、物流のプロセスを見直すことは調達コストの最適化に重要な役割を果たします。製品の質には直接関わらないものの、物流コストは企業にとって事業運営に欠かせないオペレーティングコストです。また、最適化の余地が多く残されている一方で、それによって享受できるメリットが大きいのは物流コストの特徴だと言えます。
物流コストには、輸送費と保管費が含まれます。情報が一元管理されていることにより、在庫の状況が可視化され、これらの費用の削減に取り組みやすくなるでしょう。
物流コストの削減について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
参考:物流とは?輸送費や倉庫の費用、運送や保管・梱包作業のコスト削減、国際物流や運送会社の比較まで
3.多様なニーズに対応することができる
情報をリアルタイムに一元管理できることにより、消費者のニーズの情報もサプライチェーン全体に共有され、多様なニーズに対応することが可能になります。
特に近年のSCMの特徴の一つである「機械学習など最新のデータ解析ができる」ことを用いることで、サプライチェーン全体で共有される消費者からの情報をもとに、消費者ニーズの予測をすることもできます。
SCM(サプライチェーンマネジメント)が注目される背景
2000年代初頭からのITツールの発達により、情報の一元管理が可能になったことを受け、SCM(サプライチェーンマネジメント)の強化が重要視されるようになりました。
近年では、ビジネスのグローバル化により、海外の拠点を持つ企業が増えるにつれ、関わる会社の数や人の数も増加しました。また、以前までは中国で製品を一括生産し、日本に逆輸入していた企業が多かったですが、現地での人件費の向上に伴い、ベトナムやカンボジア等に生産拠点を移したり、生産機能を分散させる企業も増えています。
こうした海外の生産オペレーションの変化により、情報の一元管理は一層重要視され、SCMの強化が改めて注目されるようになっていると言えます。
また、先の章でインテリジェントSCMの例を紹介したように、AI技術の発展により、ビッグデータを活用することでユーザーの嗜好や行動パターンなどが分析されるようになりました。これらのデータを全体で共有し、より的確でスピーディーに消費者ニーズに対応するためにも、SCMの強化はなくてはならないものとなりつつあります。
SCM(サプライチェーンマネジメント)の最適化のために抑えておくべきポイント3選
SCM(サプライチェーンマネジメント)を強化するために意識するべきポイントは、主に以下の3つが挙げられます。
1.サプライチェーン全体を見て施策を考える
サプライチェーンには、多くのプロセスが含まれますが、SCMにおいては、サプライチェーン全体を俯瞰した上で最適化を図ることになります。
たとえば、一部のプロセスを最適化するのに人材の過不足が出てきた際には、他のプロセスでの人材の過不足と相殺することが可能な場合もあります。全体を見ることにより、リソースを無駄にすることなくサプライチェーンの最適化を図ることができるでしょう。
2.意思決定プロセスを最適化する
平時はSCMシステムや決められたオペレーションに基づいて生産・調達計画を機械的に進めることができますが、災害や不良品のリコール、不祥事などの有事に際してはマネジメント層による修正案・現場への介入が必要となることがあります。
サプライチェーン全体をデジタルトランスフォーメーションし、SCMシステム等でマネジメントする上で重要となるのが、こういったマネジメント層による修正・介入、経営陣やSCM専門部署による意思決定の在り方です。特に、これら上層による決定が、「どのようにシステムのオペレーション内へ組み込まれるのか」が重要です。
どの場合に・誰の意思決定を、システムのオペレーションに組み込むのかを決めるためにも、そもそもの社内の意思決定プロセスを明確に設定しておくことが重要です。
また特に気をつけたいのが、海外にも拠点がある企業です。この場合、意思疎通の連絡網が複雑になり、物事の決定権が分散する傾向にあります。議案事項だけでなく、問題が起こったときの対応を、どういうプロセスで決めていくのかを最適な形で決めておくことで、スムーズに意思決定のプロセスを進めることができます。
3.再現性のある取り組みをする
グローバル化や国際競争の激化に伴い、サプライチェーンの最適化において、それぞれの部署で属人的なアプローチを取るだけでは立ち行かなくなっています。仕組みの構築やシステムの導入などによるアプローチも組み合わせることで、再現性のあるSCMを行うことができます。
また、SCM専門部署の設置をすると、その部署がSCM強化の取り組みを一括管理してくれるので、進行状況のモニタリングやKPI設定、施策の修正等がスムーズになるでしょう。
SCM(サプライチェーンマネジメント)の先進事例
SCM(サプライチェーンマネジメント)の先進事例を紹介します。
1.ジャストインタイム方式:トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)
トヨタが発案した「ジャストインタイム方式」は、いまや日本だけでなく世界の製造業の多くで用いられるスタンダードとなりつつあります。ジャストインタイム方式とは、注文されたクルマを、より早く届けるために、次の4つの内容により最も短い時間で効率的に造る方式です。
①お客様からクルマの注文を受けたら、なるべく早く自動車生産ラインの先頭に生産指示を出す。
②組立ラインは、どんな注文がきても造れるように、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておく。
③組立ラインは、使用した部品を使用した分だけ、その部品を造る工程(前工程)に引き取りに行く。
④前工程では、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておき、後工程に引取られた分だけ生産する。
つまり、「必要なものを、必要なときに必要な量だけ造る!」という考え方で、生産現場の「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的になくし、良いものだけを効率良く造る、生産性の向上に貢献にする生産様式です。(以上の内容の引用元:トヨタ生産方式)
この方式はサプライチェーン全体の最適化を体現しており、最も有名なSCM強化の例と言えるでしょう。特に製造業では、ジャストインタイム方式の導入を検討してみると良いかもしれません。
ただし、こういったオペレーションを取る際は、下請け企業との良好な関係を心掛けると共に、公正な契約関係を保つために、最大限の注意を払う必要があります。
2.ロジスティクス部門による統合的管理と独自の物流の仕組み:花王株式会社(以下、花王)
花王では、サプライチェーンの全てのプロセス・データを統合的に管理するエンジニア集団としてのロジスティクス部門が存在しています。ここでは、消費が多様化され短期間で変動する市場の需要に応じて、商品を速やかに滞りなく供給する仕組みを構築するべく、需要予測技術の開発が主体となる活動が行われています。
また、「卸店を介することなく花王から小売店へ直接商品が運ばれる」という花王独自の仕組みを持っています。店頭からの受注に欠品することのないように、物流拠点の最適在庫を、予測した需要予測に基づいて設計することもロジスティクス部門の役割であり、これはサプライチェーンのプロセス管理の1つです。
このように花王では、サプライチェーンの統括管理を行うロジスティクス部門において、需要の予測をするとともに、その需要予測を活かせるようなサプライチェーンの仕組みを構築し、実際に需要予測を活かした在庫調整を行っています。
3.SCMクラウドの導入:株式会社ローソン(以下、ローソン)
ローソンでは、もともとサプライチェーンの統合管理が進めらており、ローソンのサプライチェーンを管理する100%出資の機能子会社である株式会社SCIを設立するなど、SCMのデジタルトランスフォーメーションに積極的に取り組んできました。こういった取り組みには、通常原材料の仕入れや製造を外注することの多いコンビニの中食食品の欠品や過剰在庫を防ぎ、原材料の廃棄を減らす、という目的が背景となっています。
その後2018年には、情報を常に共有し、サプライチェーン全体を可視化、コントロールできる仕組み作りのため、SCMのためのクラウドツールを導入しました。このツールの導入により、社内外、国内外に関わらず、サプライチェーン上にある在庫をリアルタイムに把握でき、次の工程や需要を見越した供給計画を立てることが可能になりました。
会社のSCMを見直そう
SCM(サプライチェーンマネジメント)を自社で行う際のポイントは抑えられたでしょうか?
情報を一元管理した上でサプライチェーン全体を見るなど、のポイントを挙げました。
実際の企業の成功例も参考にしながら、皆さんの会社のSCMを見直してみてはいかがでしょうか?
本記事が、皆さんの調達の最適化の一助となれば幸いです。
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