2020.05.19

人件費削減入門|業務改革と要員計画がカギ。安易なリストラに走らないための対策を解説

人件費削減入門|業務改革と要員計画がカギ。安易なリストラに走らないための対策を解説

人件費は、固定費の中でも占める割合が大きい費用。そのため、人件費を削減することは、大きなコスト削減につながることも多いです。

一方、人件費削減と聞くと、リストラ、希望退職など大胆で、デメリットが多い削減方法を連想してしまう方も多いのではないでしょうか?このようなイメージが存在する理由は、取るべき「打ち手」とその「順序」がコスト削減の成否を大きく左右するからです。

本記事では、2つの適切なアプローチ方法と、実行の際に押さえるべき点をお伝えします。

TEXT BY Leaner Magazine編集部

人件費削減を進める前に押さえておきたい2つの留意点

人件費削減を闇雲に始めようとすると、社員の負担や、コスト削減目標に達しないことにつながりかねません。人件費削減が失敗に終わらないように、気を付けるべきことを2つ挙げます。

  

①コスト削減は段階的に進める

「大胆なコスト削減策の方が多くのコストを削減できる」と思われるかもしれません。

しかし一度に大規模なコスト削減を行うと、管理体制の細部に支障をきたすリスクもあります。予期せぬ問題が複数出てしまうと対処できず失敗に終わることもあり得ます。また、人件費はそれ自体が利害関係者の多い費目であるため、複数の問題が生じやすいのも事実です。

例えば、ある業務を削減すると決め業務担当者を完全に部署異動する場合、その決定がミスだったとしても後戻りが難しくなることがあります。 細かな作業内容の留意点が引き継がれないため、 一から業務を再開しなければいけない上、部署異動となった人たちもその都度元の部署に戻りサポートしなければいけず、本業務に集中できません。

このようなケースを防ぐために、段階的・継続的に計画を練ることが必要です。少しずつ削減に取り組み、PDCAを回しながら対処してみてはいかがでしょうか。

  

②業務量の削減から始める

人件費を削減するというと、多くの企業は人を減らすこと、つまり「要員の適正化」に取り組みがちです。しかし「要員の適正化」から始めると、その業務の必要性を判断せずに、人員を割り振るため、優先度の低い業務に取り組む人も出てきてしまいます。

そこで、「業務量の適正化」を行ってから、それに準じた要員計画を考えることが重要でしょう。それぞれの業務に優先度をつけ、優先順位の高いタスクに対して要員を配置することで、社員に負荷をかけずに人件費を削減できます。

例えば、100人が500個のタスクを一日にこなしているとします。この状態で人を90人に減らしたとすると、どうしても一人当たりのタスクが増えてしまい、負荷をかけてしまいます。また、それぞれのタスクにかかる工数が統一されていないため、人によって忙しさが変わります。

一方、業務を棚卸しし、500個のタスクを重要な450個に絞ることができれば、1人あたりのタスク数を変えずに、要員を90人に抑えることができます。この後に、要員計画を業務の得意・不得意によって練る直すことで、さらに人件費を削減することができます。

このように「業務量の適正化」を行った後、「要員計画の適正化」を行うことで、無理なく人件費を削減することができるでしょう。

  

人件費を無理なく削減するための2つのアプローチ

【1】業務改革(BPR)を行う

前述の通り、人件費削減でまず初めに取り組むべきことが、「業務量の適正化」です。その業務は、企業が業績をあげる上で必要な業務なのか、1つ1つ見直していくことが必要です。

業務量の全体像を把握する重要な手段として、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)があります。BPRとは、ある目標を達成するために、企業活動や組織構造、業務フローを再構築することです。

BPRのやり方は企業によって様々です。一般的なプロセスは以下の4つです。

  

①業務プロセスのフローチャートを作成する

まず、BPRの対象とするプロセスを定義します。「どの範囲のプロセスを対象に見直しをするのか」を明確にし、着手すべきポイントを可視化します。その上で、細かく可視化された業務内容を全体のプロセスの中に組み込み、フローチャートを作成します。

たとえば、製造プロセスから受注販売プロセスまでを、大きなプロセスとしてまとめます。フローチャートを作成することにより、製品が顧客に届くまでのプロセス全体からみた効率性を可視化できます。業務効率化に着手する際にも、現場社員に対して業務効率化の意図がきちんと伝わりやすくなり、社員の不満解消にもつながります。

  

②そもそも無駄なプロセスをなくす

フローチャートから見えてきた無駄なプロセスをまずは削除しましょう。とくに属人的な業務に、無駄なプロセスが隠れていることが多いです。たとえば、電子申請に切り替わった会社であるにも関わらず、契約書類を紙に印刷する作業。このような他のプロセスに影響することなく業務を削減できるものに関しては、削除しましょう。

  

③効率的な方法により業務を減らす

他の部署と密接に関わっており簡単に変更できないけれど、効率的ではない業務はありませんか?プロセス全体から見てあげることで、各部署では最適であっても他の部署に負担を欠けている業務にも着目することができます。

そのような業務に対しては工夫をし、プロセス全体でみて効率的な業務に変えてあげましょう。具体的には、採用面接をWeb面接に切り替え、どの部署・役職に対しても同じ工数に整えることなどが挙げられます。

  

④標準化することで、質を向上させる

業務プロセスが統一されていないと、業務の進捗度合いや品質にばらつきが出てしまいます。このような事態を避けるために、使っているシステムや業務プロセスを標準化し、業務の質を向上させます。たとえば、ナレッジシェアツールを使い営業ノウハウを蓄積し、平準化することです。これによって、研修効率も上がるうえ、質も改善されます。

  

【2】要員計画を最適化する

業務の効率化を進めることができたら、次はできるだけ少ない人数で業務を遂行できるような要員計画を作ります。要員計画とは、業務量のインパクトに応じて人員を配置していくことです。業務内容の工数を事前に査定することが必要不可欠です。

要員計画を考える際に有効な人材の配分方法として、以下の2つが挙げられます。

  

①多能工化

まずは、業務内容の変化に応じられる人材を育成することが必要です。繁閑差のばらつきが大きい業務が存在する場合、様々な業務をこなすことができる人材の有無によって人件費も大きく変わります。

営業事務とコールセンターが必要な会社があるとします。この場合、片方しかできない社員がいる場合は、朝と夕方に業務が集中する営業事務の人と営業時間に業務が集中するコールセンターの人を別々に雇う必要があります。しかし、両立が可能になれば、雇う社員数も減り、人件費も抑えることができます。

このように、複数の業務をこなせる人材を育てることを「多能工化」といいます。多能工化により、担当業務による社員の負荷を平準化することができます。また、様々な不測の事態に対して柔軟に対応することができます。

  

②業務のアウトソース化

経理や事務処理などの単純作業で、内製化する必要のない業務が案外多いという企業もあります。そのような企業にとって、特定の業務を委託することは人件費削減の観点はもちろん、業務効率化にも役立ちます。

単純作業のアウトソースを行うことで、社員は複雑かつ重要な本業務に専念できます。また、委託業者によっては特定の事務処理に特化しているところもあるなど、比較的効率よく業務を遂行してもらえることが多いです。単純作業については、アウトソース化による社員の負担軽減と、アウトソースする際のコストを比較し、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

  

段階的に人件費削減を取り組もう

人件費削減の2つのアプローチ、「業務の最適化」と「要員計画の見直し」の2点を押さえられたでしょうか?

給与カットやリストラなど悪いイメージが連想される人件費ですが、順を追った削減計画の実行で、大きなコスト削減効果が見込めます。

企業のビジネスプロセスごとにやり方、削減箇所は異なると思うので、他社の方法を安易に応用することは得策ではありません。自社に負担にならない削減箇所を洗い出し、適切な人件費削減に取り組んでみてはいかがでしょうか。